死後経過時間が長期になると死後直後に産卵するクロバエやニクバエが成虫なってしまい、これまで紹介した方法は利用できまない。その場合、特に死後遅れて死体に引き寄せられる虫が死体に到着するまでの時間(PAI、pre-appearance
interval)を考慮する必要がある。PAIと気温の関係については、クロバエ科、イエバエ科、カツオブシムシ科、シデムシ科、ハネカクシ科などが調べられてる(Ekrakene & Iloba, 2011, Matuszewski, 2011, Matuszewski, 2012, Matuszewski & Szafałowicz, 2013,
Matuszewski,Szafałowicz, & Grzywacz, 2014)。
また冬の寒い時期については産卵する温度が死後経過時間の鍵になることがある。気温が約 13℃以下ではハエは産卵活動をしないので(寺沢ほか、2006)、死体発見より前で現場の最高気温が13℃以上になる日を見つける。ただし、ウジが3
齢で越冬することがあるので、注意が必要である。春先に死体に認められる 1 cm以上のウジは前年の秋までに生まれたものかもしれない。
死体から離れたところにいるウジについては、次のウジの這う速度の方程式(ルリキンバエ)を用いて死後経過時間の精度を高めることができる(Charabidzeほか、2008)
speed(cm/min)=5.45xlog[length(mm)]+0.66 x temperature(℃)-12.8
蛹を形態的変化に基づいたPMIの推定も試みられており、Brownほか、2015ではホホアカクロバエについて、各パーツの色、羽の折りたたみぐあいからADHを推定する方程式を作成している。Feng &
Liu, 2014ではクサビノミバエ、Megaselia scalarisについて、温度ごとの形態的変化の時間的推移を調べており、これを元にPMIを推定できる。
ハエ成虫の羽化後の時間の推定も、形態、生化学、遺伝学的に試みられているて、メスの生殖器とプテリジン、体表炭化水素が有望と言われている(Amendtほか、2021)。